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司法書士   林 嘉彦
社会保険労務士 亀甲 保弘


小説  『重加算税』   ≪ 第1章 棚卸除外 ≫


−第 2 話 ( 持 論 )−


第1話 ( 重審 )にもどる

 2ヶ月前の7月10日、今年も人事異動の日が来た。 松島は北山税務署の署長室にいた。 「 西南税務署勤務を命じる。」 署長からの辞令を手渡された。 同じ法人部門の 『上席調査官 』 定岡も偶然同じ 西南税務署への転勤を命じられていた。

 数日後、西南税務署に着任してみれば、定岡上席調査官が自分の統括官になっていた。 定岡上席調査官、いや定岡統括官は、送別会、歓迎会の酒が今日も抜けきらないような顔をして、松島に話し掛けてきた。 「 俺も統括になったが、よくわからないのでしっかり頼むよ。」 ウダツの上がらない統括官である。 しかし、人は良い。 人が良いから出世もしない。 定年前にやっと統括官に昇進したのである。

 統括官、つまり普通の会社で言えば、課長である。 もちろん、同期の中でも40歳前後で昇進する者もいれば、統括官にならずに上席調査官のままで定年となる者もいる。 

 このような人の良い定岡を松島は北山税務署時代から好きであった。 また、松島にとって調査の後に調査内容を報告する 『 復命 』 等でも定岡は扱い易い統括官でもあった。 
 ただ、二日酔いの口が臭いのが嫌だった。
 「 よし、この定岡を統括官として男にしてやろう。」 松島はそう思った。

 定岡と松島は、西南税務署法人第5部門である。 法人第5部門は、、人の良い、出世と無縁の山下上席調査官、調査2年目の毛利、税務大学を卒業したばかりの浜井である。

 税務職員になるには、3つの方法がある。 一つは超一流大学を超一流の成績で卒業し、国家公務員試験を受験し、財務省・国税庁に採用され、 若くして税務署長として赴任する。 近年問題視された例のキャリア組である。

 松島もキャリア組の話はよく聞いたことがある。
 彼らは27歳前後で比較的小規模の税務署に、いきなり署長として赴任してくる。
 これをお守する総務課長は大変である。 自分の子供くらいの年齢の署長である。 それが、プライドの塊のような人格である場合が多いから泣けてくる。
 
 しかし、頭は抜群に良い。 以前ある署の重審の席で法人担当統括官が 「 どうせ、税法も深くは知らないだろう。 」 と、適当に説明していたら、若いキャリア署長が 「1日待ってください。」と言ったそうな。 
 翌日、再開したら、 『 一読難解 』 、 『 二読誤解 』 、 『 三読不可解 』、 『 四読不愉快 』 つまり、一度読むと難解であるが、二度読むと誤解してしまう。三度読むと不可解で判らなくなる。全く不愉快である。と言われる法人税法をたった一晩で判読して、統括官の鼻を明かしたという。

 また、こんな話も聞いた。
 今はそうでもないが、以前は旧大蔵省と言えば東大を10番以内に卒業し入省する。
 この段階で大蔵省採用と国税庁採用ではランクが違う。 また、大蔵省採用同期でも熾烈な競争が待っている。
 そんな時、上司がこう尋ねる。
 「 君は外国語は何ができるかね。」 と。
 「 はい、私は英語とドイツ語です。」  
 「 はい、私は英語とフランス語・・・・・」 と答える。
 これでは、もうだめなのだそうだ。
 
 英語は当たり前。 「 英語と・・・・・」 と答えるようではだめなのである。

 残りの2つの方法が一般的で、国税専門官採用試験か、国家公務員試験の税務職を受験し、国税庁が全国数ヶ所に設置した税務大学校に入学する方法である。
 西南税務署の全員がそれである。

 調査経験について言えば、松島も調査経験は前任署の4年間が唯一の経験年数である。 
 その前は管理徴収部門にいた。 
 管理徴収部門は、課税された税金の納付管理や滞納処分をする部門である。 管理徴収部門から法人部門に転課するのは珍しい。 管理徴収部門で大口ばかり叩いていた松島は、法人部門に転課して人が変った。

 管理徴収部門は仕事の量が決まっていた。 その仕事をいかに正確に早くこなすかである。 松島は 「 上席も先輩も関係ない 」 と思っていた。 誰よりも早く正確に仕事をこなしていた松島は天狗になっていた。

 ところが、法人部門に来てみると違っていた。 いくら大きな脱税を見つけても、自慢できないのである。 1,000万円の脱税を見つけたとしても、本当は1億円かもしれないのである。 自分は1億円の内の1割しか見つけていないのかも知れないのである。 同僚が同じ会社を同時に調査するわけでもないので比較できない。 脱税が有るのか無いのか、脱税を発見した場合でも脱税金額はいくらなのか、仕事に底が見えないのである。

 そう考えると、偉そうには言えない。 法人の調査能力というものは、ある程度調査経験が優先するため年数も必要であるが、ほぼ3年から5年もすれば、優秀な調査官に育つかどうか決まってくる。 センスと努力と気力、そして洞察力であるが、結局、9割以上はやる気が結果を生むのである。 年齢とともにマンネリ化した調査官は、いつまで経っても良い仕事はできない。
 つまり、まぐれでしか脱税は見つけられない。

 松島の持論はこうである。 「 会社が脱税していたとして、2年、3年かけて記帳した帳簿を見るために、調査の数日前に 『 事前通知 』 という調査の通知を会社にする。
 調査当日は朝10時に会社に行き、2時間ほど調査して、昼飯を食い、また3時間ほど調査して4時には署に帰る。
 これを2日、3日やっても、脱税が見つかるわけがない。 2年、3年かけて化粧した帳簿を、2日、3日帳簿調査したところで、化粧が剥がれる確率は少ない。 日曜日であろうが、狙った会社の近くに行けば様子を見る。 夜の動きがある会社なら夜に行ってみる。 真剣勝負である。」

 これが、松島の 『 持論 』 である。

 松島が今回調査対象にしたのは、南港近くで船舶の内装木材を扱う、『 株式会社 南港船舶木装 』 である。 事前の準備調査では、社長は相当難しい男らしい。 また、顧問税理士が悪名高い神田悪太郎税理士である。

 昨年から在籍している毛利調査官や、山下上席調査官によると、相当な嫌がらせをするらしい。 この手の税理士は、こうした嫌がらせでしか、税務署に対抗できない所詮二流なのである。 こんな嫌がらせで萎縮する調査官もいるかもしれないが、逆に 「 よし、トコトンやってやる。」 とファイトを燃やす調査官もいるのである。
 松島もこのタイプである。

 税理士たる者、弁護士ではない。 何が何でも納税者を弁護したり、ましてや、脱税を幇助するようなことはできない。 納税者に適正な申告納税をさせる義務がある。 もちろん、税務署に対しても言うべきことは言う。 しかし、この税理士は名前のごとく、『 悪太郎 』 である。
 
 税理士がこうした税理士である場合、結局調査が長引き、要らぬ疑惑を持たれるだけで、得は無い。

 盆休み前に、会社と税理士に事前通知を済ませた松島は、盆休みの休暇に会社の周辺に立っていた。 会社敷地内に、相当量の木材が乾燥のため積み上げられていた。 まだ製材したばかりの黄色い木肌から、製材から相当月日が経過していると認められる黒い木肌まで、相当数が暑い夏の陽炎の中に揺れていた。
 松島は一言、 「 棚卸か・・・・・・ 」 と、呟いた。


第3話 ( 着手 ) につづく


* 登場する人物、団体等の名称及び業界用語は架空のものです。