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小説  『重加算税』   ≪ 第1章 棚卸除外 ≫


−第 3 話 ( 着 手 )−


第2話 ( 持論 )にもどる

 盆休みも終わり調査当日、松島は朝9時過ぎには、会社のベルを鳴らした。 案の定、社長は挨拶にも出てこない。 経理部長の高前が対応した。 神田税理士は挨拶だけしたら、別の部屋に入っていた。

 一通りの聴き取り調査の後、帳簿調査をおこなった。 売上、仕入、人件費と探りを入れる。
 そのうち12時となり昼飯を喰いに外に出ることにした。

 柱の陰からブルドックのような顔をした男がこちらを窺っている。 松島は 「 あれが社長か。挨拶もしないとは相当に舐められたものだな。」 と思った。

 昼飯は美味くない。 調査初日はいつもこうだ。 胃が受け付けないのである。
 緊張感と不正の手掛かりはおろか一般否認の糸口も見つからない時の昼飯は不味いものである。 無理やり焼き飯を喰らって昼からの調査手法を考えた。

 「 高前部長、棚卸表を出してください。」
 午後の調査は この松島の一言から始まった。
 高前部長は机の中から数枚の表を提出してきた。 松島はすっと目を通した後、
 「 高前部長、棚卸の原始記録を出してください。」
 「 これしかありませんが・・・・・」
 「 申告書によりますと棚卸は 『 実地棚卸 』 ですよね。 実際に棚卸をした時に書いた表を出してください。
 「 これで計算したのですが・・・・・・」

 表には 『 ラワン ・ 何ミリ * 何ミリ ・ 何立米 ・ 単価 ・ 金額 』 等が書いてある。
 「 これが実地棚卸した時の表ですか。」
 「 はい、そうです。」
 「 これは何ですか。」
 「 これは、 『 タウン 』 という木材です。」

 『 タウン 』 という木材は 『 ラワン 』 に似た南洋材だが、ラワンより硬く、ラワンがベニヤ板や木工工作に利用されるのに対して、タウンはより硬い材質のため、船舶等の内装家具等に使用されるのである。

 こういった調査の場合、調査官は知っている専門分野の知識を、より大きく見せて、「 この調査官はこの業種には精通している。 これは参った。 誤魔化しは効かない。 適当なところで観念した方が良い。」 と思わせた方が調査が早い場合と、 逆に知っている専門分野の知識を無知のごとく装い、尋ねに尋ねてボロを出さす方が良い場合がある。

 松島は後者を勝手に 『 刑事コロンボ方式 』 と呼んでいた。
 松島は、刑事コロンボがテレビであると必ず見て研究する。 刑事コロンボの小さな小さな糸口を見つける洞察力、そして発想が勉強になるのである。 刑事コロンボを見た次の日の調査は、知らず知らずの内に右手人差し指を眉間に構えている。

 そういえば、冬のコートも・・・・・
 もう10年も着ている。 ヨレヨレである。

 しかし、現実の最後の結果はテレビのようには上手くいかない場合が多い。

 松島はタウンとラワンの違いについて、また、見分け方についても高前からしつこく聴き取った。 見分け方など調査に関係ないようであるが、これがその後の大きな分かれ道になることを今の高前は知る由もなかった。
 得意そうに話す高前に喋らすだけ喋らせて、松島は次の質問をした。
 
 「 これは何ですか。」
 タウンとラワンの違いを得意そうに話し、
 「 この調査官は木材については素人だな。」 と思った高前は少し警戒心と緊張感が薄れていた。
 事実、松島はタウンという木材のことは知らなかった。

 「 これは材木の厚さですよ。」
 「 なるほど。 では、これは?」
 「 長さですよ。」
 「 では、これは?」
 「 立米数ですよ。」

 「 なるほど。 これに単価を掛ければ棚卸金額が出るわけですね。」
 「 そうですよ。 単価にはちゃんと運送費も加工費も計算していますよ。」

 じっと、棚卸表を見ていた松島は、アッと思った。
 松島は、ゆっくりと質問した。

 「 これが本当の棚卸の原表ですね。 これで計算したのですね。 先に下書きし、それをこれに清書した のではないのですか。」
 「 いいえ、これが原表ですよ。」
 「 本当にそうですか。」
 「 間違いありません。」
 「 もう一度見てください。 これで計算したのですか。」
 「 しつこいですね。 間違いありません。」

 口調を荒げ、少し緊張感の取れた態度から一変して敵意のある目に変った高前を見て、松島は静かに言った。
 「 ここで、一寸計算してみてくれませんか。 そうそう、この一番上に書いてあるタウン20ミリの木材で いいですから、 計算してみてく ださい。」

 計算器を持ってきた高前は計算器を叩きだしたが、すぐに指が止まってしまった。
 その指は小刻みに震えていた。

 松島は高前の顔からさっと血の気が引くのが見えた。
 何も言えずに机に座り込んだ高前に松島は言った。
 「 高前部長、これを写す前の原始記録がありますね。 これには、○○が無い。 ○○のある原始記録 を出してください。」
 
 高前はじっとして動かなかった。 何か言い訳をしようと考えている様子であるが、声が出ない。
 長い沈黙の後に急に高前は部屋を出て行ってしまった。

 少しして、税理士の神田と社長が入ってきた。


第4話 ( 現場 ) につづく


* 登場する人物、団体等の名称及び業界用語は架空のものです。